Millipore Sigma Vibrant Logo
 
 

ミリQ百科


メルクミリポアの無料技術講習会MILLI-SCHOOL®をご存知でしょうか?
超純水・純水の基礎から応用、使い方のポイントなど様々なノウハウをお伝えして、毎回盛況です。
でも、日程が合わないから…、近くで開催していないから…、など、参加したくても参加できないというお声もたくさんいただいています。
そこで、少しずつではありますがMILLI-SCHOOLの一部と、Webだけのプラスαの情報・知識を「ミリQ百科」として連載していきます。


こちらは、第16回からのページです。
第1~15回までは、こちらをご覧ください。

ミリQ百科その2 目次

  1. 16. ミリQの歴史…最初のミリQ
  2. 17. ミリQの歴史…限外ろ過膜(UF)登場
  3. 18. ミリQの歴史…最初の卓上型
  4. 19. ミリQの歴史…カートリッジの進化(1)
  5. 20. ミリQの歴史…カートリッジの進化(2)
  6. 21. ミリQの歴史…紫外線(UV)ランプ登場
  7. 22. ミリQの歴史…カートリッジの進化(3)
  8. 23. ミリQの歴史…カートリッジの進化(4)
  9. 24. 挿話…放射性物質で汚染された水をメルクミリポアの装置で処理できるか
  10. 25. 機種選定を簡単にしたPOUフィルター
  11. 26. スムーズな採水のためのフィルター技術
  12. 27. 安心の限外ろ過ユニットの秘密
  13. 28. ミリQの中のミリQ
  14. 29. 有機物を除去するEDS Pak
  15. 30. LC分析に最適なLC-Pak



16. ミリQの歴史…最初のミリQ

メルクミリポアでは、1969年から日本で超純水製造装置を販売していますが、現在のミリQは、当時のミリQと比べてもちろん様々な面で進歩しています。ですが、ベースとなる精製の方法論は実は今と大きく違わないのです。それは…

イオン交換による無機イオンの除去と、活性炭による有機物の除去という超純水を製造するための基本的な要素です。
イオンには陽イオンと陰イオンがあり、それぞれを除去するためにイオン交換樹脂には陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂の2種類があります。ミリQのカートリッジには、これを混ぜ合わせたミックスベッドと呼ばれるものが入っています。
最初のミリQは、「ミリQ 3W」というタイプで、カートリッジを3本セットします。プレフィルター→活性炭→ミックスベッド(イオン交換樹脂)の順に水が流れ、最後に0.22µmメンブレンフィルターを通って超純水ができていました。大きな粒子の除去→有機物除去→イオン除去→微粒子・微生物除去というまさに基本の精製フローです。
次に、イオン交換樹脂に活性炭を混ぜたオーガネクスと呼ばれるカートリッジが作られ、1本で無機イオンも有機物も取れるようになりました。当時は、液体クロマトグラフィーなど有機物を測定するときにこのカートリッジを使用していました。カートリッジが4本になった「ミリQ 4W」では、使い分けがされていました。今ではこのオーガネクスとミックスベットがミリQに使われています。

最初のミリQ
初期のミリQを使ったことがある方は、比抵抗値が上がるのに少し時間がかかったというイメージがあるかもしれません。カートリッジをハウジングに(写真の白い筒)にセットする形なので、装置内に滞留している水の量が多かったのです。そのため、循環して純度上げるのに時間がかかりました。現在はカートリッジも改良され、またイオン交換樹脂の能力も上がっているので、今のミリQは比較的早く18.2Mω・cmまで水質が上がるのです。

ミリQの進化を見ていくと、なぜ現在の精製方法、形になっていったのか、が分かります。次回は、その次のタイプのミリQと比べて見てみます。




17. ミリQの歴史…限外ろ過膜(UF)登場

ミリQは時代ごとに求められていた超純水を製造するために、様々な技術を取り入れてきました。その中で、今では一般的になっている限外ろ過膜について見てみましょう。

細胞培養をするために使う水としてパイロジェンフリー水が求められていたことから、1985年、これを除去するために限外ろ過膜をとりつけたミリQが登場しました。ミリQ4W UF(限外ろ過)タイプです。
限外ろ過膜はタンパク質や酵素などの実験で分離、精製、脱塩などよく使われていますが、これを超純水に組み込むことで細胞の成育阻害因子であるパイロジェンやRNAを分解する酵素のRNaseが入っていない超純水を採水することができます。
機種によって使うUF膜のタイプも異なっていますが、分画分子量5,000~13,000位の膜が使われています。
写真のタイプでは、一番右のハウジング(丸い筒の部分)にUF膜をセットして使っていました。その後も細胞培養や遺伝子実験に使う超純水製造には、装置内のフローにUF膜を組み込んだタイプが販売されてきました。ところが、このタイプは高感度の機器分析などには向いていないため、分析をしようと思うと分析に適した別のタイプの超純水装置を選ばなくてはならず、この頃は、用途が変わるたびに機種選定をしなおす必要がありました。
UF

最新のミリQでは、UF膜を装置の内部ではなく、最終フィルターとして接続できるようになっています。これであれば、ベースとなるミリQが1台あれば、あとは用途に合わせてフィルターの種類を変えるだけとなるわけです。現在販売されているUF膜のカートリッジは、BioPakというものになります。

» 限外ろ過について詳しく知りたい場合は、 超純水・純水の技術解説:最終フィルターとPODPakの限外濾過膜(UF膜) をご覧ください。

次回は、世界初の卓上型タイプについて、お話します。

BioPak
» BioPak 製品情報
» BioPak 技術資料




18. ミリQの歴史…最初の卓上型

現在の超純水装置は実験台などの上に「置く」ことができますが、初期の装置は置くことができなかったことをご存知ですか。では、いつから卓上型になったのでしょうか?

初期のミリQは前回ご紹介したような形をしており、壁や架台に取り付けるタイプでした。カートリッジフィルターを交換するには、どうしても下にスペースがないといけませんから、必然的にこうなったのです。

卓上型Milli-Q SPところが、最近の装置は実験台などの上に置くことができる卓上型になっています。当たり前と思われるかもしれませんが、実は登場した当初は画期的だったのです。なぜなら、交換するフィルターがむき出しのままでは卓上型にできないので、そこを何とかしなければならなかったからです。
そこで開発されたのが、カートリッジフィルターとハウジング(フィルターの入れ物)が一体となったものでした。ディスポワンカートリッジ(DOCカートリッジ)という名前でしたが、実はこれを作り、使い始めたのは日本でした。当時、山形県米沢市にメルクミリポアの日本向け製品工場があり、そこで試行錯誤して作られました。これにより、1987年にMilli-Q SP(写真)が製品化され、台の上にも置ける形となりました。
その後、メルクミリポアのスタンダードとしてフランス工場で製造されることとなり、Q-Pakカートリッジ(写真)としてMilli-Q Plusなどの装置にも使われるようになったのです。以降の装置は、超純水装置、純水装置を問わず台の上に置けるため、現在では、あえて卓上型と呼びませんが、歴史的には卓上型に分類されています。また、今では消耗品として様々なカートリッジが販売されていますが、どれも精製用フィルターや樹脂、活性炭などはハウジングの中に入っていて、お客様が交換される際に中の水が大量に出てくることはないかと思います。

設置場所の制限が大きかった壁掛け型から設置自由度の高い卓上型へ。水質だけでなく使い勝手の向上も、製品の進化には重要なポイントとなっています。

次回は、超純水・純水を精製するカートリッジの進化について見てみたいと思います。




19. ミリQの歴史…カートリッジの進化(1)

超純水を精製するための様々な技術を紹介してきましたが、より効果的な精製、またメンテナンスの簡便化のポイントとなるのは…

その1つが「カートリッジ」です。カートリッジと一言でいっても色々ですが、ここでは不純物を除去するために必要で、使用により交換を要する消耗品全般のことを指します。カートリッジが使われる部分は、大まかに分類すると、純水装置:プレフィルター、RO膜、タンク:エアーベントフィルター、超純水装置:超純水カートリッジ、UF膜、最終フィルターとなります。
これまでもいくつか紹介しましたが、どう進化していったのか…今回は、プレフィルターの機能の進化です。

カートリッジの進化(1)

A) デプスフィルター(鉄さび等、粒子除去)、活性炭フィルター(RO膜保護のための塩素除去)を別々のハウジングにセット
B) 上記2つのフィルターが1つのカートリッジに一体化
C) RO膜スケーリング防止剤採用(軟水器が不要に!)、銀添粒状活性炭採用(活性炭中での微生物の繁殖を防止)
D) RO膜の塩素洗浄剤追加(塩素タブレットによるRO膜洗浄が不要に!)
E) 記録タグ採用(実際の使用量、交換時期を装置が認識、メンテナンス性が向上)

初期は1つの役割だけだったものが、目的・機能を持たせた複合カートリッジへと変わっていきました。特にRO膜にカルシウムなどの析出(スケーリング)を防止するポリフォスフェートが入ったことで、それまで原水水質により必要となることがあった前処理の軟水器を不要とするなど、メンテナンスやコスト、設置スペースを削減できたことなど、カートリッジ化は様々な点でメリットがありました。

次回は、他のカートリッジの進化を見てみましょう。




20. ミリQの歴史…カートリッジの進化(2)

前回カートリッジの進化としてプレフィルターをご紹介しました。カートリッジにはいろいろな歴史と秘密がある!?今回は…

純水装置に使われているRO(逆浸透)膜カートリッジについてです。使用量や原水の水質で1~2年程度で交換されているかと思いますが、カートリッジは装置本体内部に入っているので機種によってはあまり見ることがないかもしれません。
今回は、RO膜の特徴とカートリッジ化について、お話します。
【RO膜の種類】
RO膜には、これまで、大きく分けて2種類の素材の膜を使用してきました。
1. 酢酸セルロース膜…微生物汚染に強く、塩素を含む水道水を処理できるので、前処理に活性炭が不要というメリットがあり初期に使用していました。
2. ポリアミド膜…塩素に弱いので前処理に塩素を除去するための活性炭フィルターが必要ですが、不純物の除去率が高く、1に比べて低い圧力でRO水を得られます。
一時は酢酸セルロース膜とポリアミド膜の両方を純水装置用に供給していたときもありましたが、現在メルクミリポアでは、2のポリアミド膜を製品として供給しています。

カートリッジの進化(2)
【カートリッジ化への変化】
A) 1970年代~…RO膜をハウジングの中にセットして使用。膜も大きかったので、ハウジングも大きく、中の膜を入れ替える交換作業やハウジング内部を洗浄するメンテナンスなど手間がかかりました。
B) 1985年~…膜自体をベースに直接コネクターをつけられるようにされたタイプを使用。
C) 1996年~…膜の小型化が進んだことから膜とハウジングをセットにしカートリッジ化しました。これにより、チューブをつなぎ変えるだけで交換もより簡単にできるようになりました。 現在は下のDirect-Q UVを除いたほとんどの機種でこの方式を採用しています。
D) 2005年…Direct-Q UV用などに、RO膜とプレフィルターと超純水用カートリッジが一体となった、Smartpakを開発。ワンタッチで膜の交換ができるようになりました。
膜の不純物を除去する性能とメンテナンス性が、時代とともに向上しています。

次回は、超純水装置での歴史をみていきます。



21. ミリQの歴史…紫外線(UV)ランプ登場

ミリQ水の精製で、今では標準となっているものがあります。それは波長185/254nmの紫外線(UV)ランプ。初登場は、1990年発売のMilli-Q SP TOC。このUVランプの効果は…

超純水装置は、水中の有機物を活性炭で除去します。ところが時代が進むにつれ、極微量の有機物を検出する分析機器が登場し、低有機物濃度の超純水が必要となりました。そこで効果的だったのが、有機物を酸化分解する185nmUVランプでした。

紫外線は可視光より波長が短く、UVAやUVBは日焼けの原因と聞かれたことがあるでしょう(図1)。185nmUVはUVA・Bより短波長で、高いエネルギー(647kJ/mol)を持ちます。有機化合物のC-C、C-Oなどの化学結合は185nmUVでの直接分解に加え、185/254nmUVにより発生するヒドロキシラジカルによっても分解されます(超純水・純水の技術解説:有機物分解用紫外線ランプ)。ミリQ水は、活性炭+185/254nmUVの優れた精製機構でTOCが数ppbにまで低減されています。

紫外線(UV)ランプ
超純水・純水装置のカタログには、UVは185、185/254、254nmなどいくつか波長が出てきます。ミリQのUVランプは、低圧水銀ランプというものを使っていて185nmには254nmの波長も含まれている(図2)ので、185nmUV=185/254nmUVとご理解ください。ここでの254nmUVは先ほどのヒドロキシラジカル発生に関わっています。
単に254nmUVとだけあるのは純水装置用の殺菌UVのことです。この波長は微生物のDNAに傷をつけ、微生物繁殖を抑制します。超純水装置での精製目的とは異なるものなのです。

» 今回の内容をもう少し詳しく知りたい場合は、超純水・純水の技術解説:紫外線ランプを参照ください。また、技術資料がありますので、 R&D Notebook: Milli-Q GradientのTOC分析装置による評価 からPDFをダウンロードしてご覧ください。

次回は、「超純水のカートリッジ」の歴史です。



22. ミリQの歴史…カートリッジの進化(3)

「18.最初の卓上型」で紹介したように、超純水用のカートリッジはQ-Pak(写真参照)のように一体型へと進化してきました。では、その中身はどうなっているのでしょうか?また、そこからどう進化していったのでしょうか?


超純水カートリッジの進化Q-Pakカートリッジには4つの部屋があり、順番に水が通って処理されていきます。そこには陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂そして活性炭が入っています。しかしそれらが別々に入っているのではありません。通常、イオン交換樹脂はミックスベッド(混床式)といって、陰陽両方の樹脂が混ざったものが入っています。また、活性炭とイオン交換樹脂を混ぜ、オーガネクスと呼ばれる状態で入っている部屋もあります。

ところが、1996年に販売開始した'96型ミリQは、このカートリッジを2つに分けました。わざわざ分けたのには理由があります。 Q-Pakを使っていたミリQ SP TOC(185nmUV搭載タイプ)では、UV照射で有機物が分解され発生したイオンを除去するためのポリッシャー(超純水用オーガネクス)カートリッジがあり(フロー1)、その分消耗品が多くなりました。そこで'96型ミリQでは、超純水カートリッジをQ-ガードとクォンタム(写真参照)の2つに分け、その間に185nmUVランプを挟むように配置しました(フロー2)。こうすることでポリッシャーカートリッジなしで、最終水質を高く安定させたのです。

» 超純水用イオン交換樹脂についてもう少し詳しく知りたい場合は、超純水・純水の技術解説:超純水イオン交換樹脂を、185/254nmUVランプ については、超純水・純水の技術解説:有機物分解用紫外線ランプを参照ください。

次回も、精製機構の進化をみてみましょう。



23. ミリQの歴史…カートリッジの進化(4)

超純水装置の最終フィルターの最も代表的なものはメンブレンフィルターでしょう。ミリQの採水口についているコマみたいな形のフィルターで、一見昔から変わっていないように見えますが、実は…

現在のミリQの最終フィルターはミリパック(Millipak)という名前であることをご存知でしょうか。「16. 最初のミリQ」にあるミリQ3本型はツイン90、さらにミリスタックという製品を経て、1986年からずっと「ミリパック」です。実はミリパックは「水」の部門でなく、「フィルター」部門で開発、進化している製品で、その技術をミリQに活用しています。もちろんミリQに使うための要求も組み込まれています。

最終フィルターの遷移  
最終メンブレンフィルターは上のような変遷となっています。特にPVDF膜を使ったミリパック40から、PES(ポリエーテルスルホン)膜のミリパックエクスプレスに変わることで、同じ流量を得るために必要な膜面積が少なく、同じ面積であれば流量を多く取れ、現在のMilli-Q Integralなどは採水速度を早くすることができました。また、部材同士の接合を熱溶着にするなど、溶出が少なく微量分析の要求にこたえられるようも進化しました。エクスプレス膜は現在の標準品となっています。

» メンブレンフィルターについてもう少し詳しく知りたい場合は、超純水・純水の技術解説:最終フィルターとPODPakを参照ください。

さて、数回に分けて、現在の技術がどのようにして作られていったかをミリQの歴史として紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
次回からは、アプリケーション対応ミリQの決め手となるPOUフィルターについてお話していきます。



24. 挿話…放射性物質で汚染された水をメルクミリポアの装置で処理できるか

POUフィルターの話の前に
放射性物質の汚染はどこまで広まっているのでしょうか? そして研究・分析に携わる者としては、試験に影響があるのではないかということが気になります。では、メルクミリポアの装置で処理できるのかというと…

まず、この度の東日本大震災にて被災されました皆様、そのご家族、関係者の皆様には、心よりお見舞い申し上げます。一日も早い復興をお祈り申し上げます。
さて、福島第一原子力発電所からの放射線物質による汚染の1つに水があります。3月末には、放射性ヨウ素 【I131】が、食品衛生法に基づく暫定規制値を踏まえた乳幼児に対する摂取を控えるよう通知された100Bq/kg以上で検出される地域が出てきました。成人は長期間摂取しても問題ないと発表されていますが理論・経験的にはとういう側面もあります。
では試験に影響があるか…というと、恐らく少ないだろうと想像はしますが、それも明確にはいえない部分もやはりあるのではないでしょうか。
そうなると、試験ではこういった汚染をできるだけ排除しておきたいものです。メルクミリポアの純水装置Elixでは、放射線物質が除去された純水を精製することが可能ですので、これまでと変わらず試験に使っていただいて大丈夫です。

簡単ですがいくつか除去に効果的な部分を紹介しましょう。
1.プロガードプレフィルター:充填されている活性炭に吸着効果があります。
2.RO(逆浸透)膜:イオン状態のヨウ素やセシウムは分子サイズが比較的大きいので効果的に除去されると予想されます。
3.ロングライフEDI(連続イオン交換):イオン状のヨウ素やセシウムはイオン交換で効果的に除去が期待できます。EDIであればイオン交換樹脂が飽和することがないので連続的に安定したイオン除去が可能です。
詳細は放射性物質が水に混入に対するFAQをご参照ください。

放射性物質で汚染された水をメルクミリポアの装置で処理できるか

また、放射線と人々の健康に関わる総合的な研究開発に取り組む国内で唯一の研究機関である、放射線医学総合研究所(放医研)においてもElixでの試験が行われて、その結果が放医研のホームページのお知らせに掲載されており、Elix水(ホームページ上ではRO水と記載されている)により水道水中の放射性ヨウ素が除去されたことが示されています。
ただし、ElixやMilli-Qで精製された水はあくまで試験用ですから、飲むことはできません。

次回から閑話休題、POUフィルターについての説明に入ります。



25. 機種選定を簡単にしたPOUフィルター

数年前までミリQの機種選定は「用途が何か?」で絞っていました。現在お使いの機種名は何でしょうか?

例えば、Milli-Q Academic/Biocel/Gradient/Synthesisなどは、用途によって機種を選定するため、複数用途の場合や、将来用途が変わる可能性がある場合には機種選定が難しかったものです。
ところが、現在の用途選定は、ミリQの最終フィルターの種類を選ぶだけなのです。今後、超純水装置の進化は、本体性能+POU(Point Of Use)フィルターの進化となっていくでしょう。

使用目的・用途
  
製品名
  
除去機構・素材・特長など
  
高純度試薬調整、一般分析 Millipak Express 0.22µm メンブレンフィルター(PES膜)で低溶出、高流量
細胞培養・遺伝子実験 BioPak 限外ろ過膜、バイオ系の用途に広く適応
HPLC、LC/MS LC-Pak C18逆相シリカ、ODSカラムと同じ素材
環境分析・ダイオキシン分析 EDS-Pak 高純度活性炭、4成分の試験報告書付き
ICP-MS、半導体洗浄 Q-POD Element イオン交換樹脂+0.1µmフィルターで極限まで金属除去


ベースとなるMilli-Q IntegralMilli-Q Advantageに、最終フィルターとして接続するだけで使えます。ですから、より高感度の分析装置を使用することになったり、用途が変わる場合でも装置本体を変えることなく、POUフィルターで対応でき、拡張性が広がることになります。

» 最終フィルターについてもう少し詳しく知りたい場合は、超純水・純水の技術解説:最終フィルターとPODPakを参照ください。

次回は各々のPOUフィルターについて、カタログやWebには書かれていない内容を紹介します。



26. スムーズな採水のためのフィルター技術

同じ孔径のフィルターでも水の流れる速さが違うことをご存知でしょうか?

フィルターは材質や製造方法により、孔(穴)の開き方や大きさが異なります。現在のミリQに標準で使われている最終フィルターは、Millipak Expresss(ミリパック エクスプレス)といい、PES(ポリエーテルスルホン)膜です。フィルターを通るときの抵抗が少なく、採水速度が速いとういう特長があります。それは構造に秘密があり、以前のタイプ(Millipak)のPVDFと比べてみると、下のような違いがあります。

フィルター構造の違い
PES膜は水が入る側(一時側)の孔径が大きく、出る側(二次側)の孔径が小さい非対称膜になっています。
Millipak ExpressはMillipakの約半分の膜面積で同じくらいのスピードで採水ができるので、採水速度の速いミリQでもフィルターの大きさをそれほど変えなくてよくなりました。また、大きめの粒子は膜表面近く、小さい粒子は膜内部で捕捉するので目詰りしにくいというメリットもあります。
一見するとわからない部分にも、性能をより高めるための技術が取り入れられているのです。

次回は別のPOUについて紹介します。



27. 安心の限外ろ過ユニットの秘密

タンパク質の除去などに使う限外ろ過膜ですが、より安心して使うための形状があるのをご存知ですか?

限外ろ過膜を使った製品で目にすることがあるのは、アミコンウルトラなどに使われている平膜(1枚の平らな膜状)タイプではないでしょうか。基材に限外ろ過膜を貼り付けて遠心ろ過したり、加圧ユニットにセットしてろ過したりします。この平膜を使って大量のろ過をしようとすると、大きなシート状の膜を貼りあわせ、スパイラル状にする必要などがあり、基材や膜同士を接着する部分がどうしても大きくなって、この部分から漏れが生じて性能が出しにくくなる可能性があります。

そこで考え出されたのが、限外ろ過膜を中空糸(中に穴がストローのように空いている形)状にする方法です。 細い中空糸膜をたくさん使うことでコンパクトに多くのろ過面積を作り出すことができ、つなぎ目は両端だけなので漏れにくい構造でろ過ユニットを作ることができます。

BioPak限外ろ過ユニット
Bio Pakの場合は、図1のように中空糸の束を逆U字に曲げ、糸の末端がすべて片方の面にくるようにします。そして図2のように中空糸膜の外側から水が入り、中空糸の内側からエンドトキシンやRNaseなどが除去された水が出てくるのです。
このようにして漏れなくきちんとろ過された超純水を採水するため、膜の性質だけではなく形状、成型方法などが工夫され安心できる水質が保たれているのです。

» アミコンウルトラについては、こちらを参照ください。

次回もPOUのちょっとカタログにはない情報をご紹介します。



28. ミリQの中のミリQ

ミリQ水といえば不純物がほとんどない水ですが、それでも極微量を見られる分析機器ICP-MSなどで見ると検出される場合があります。そういったレベルの元素分析では、極限まで金属元素が除去されていることが望まれます。

Q-POD Elementそこで登場するのが、ミリQ水をもう1度イオン除去するカートリッジにかけてきれいにした極微量分析用ミリQ水です。
超純水カートリッジがイオン交換樹脂と活性炭のミックスで無機イオンと有機物を効果的に除去するのに対し、このカートリッジQ-POD Elementはイオン交換樹脂だけが入っていて無機イオンだけをさらに除去する役割のみを担います。
さらに最終フィルター自身にもイオンの吸着能力を持たせてあり、とことん無機物を除去します。また、超純水装置自身からの僅かな溶出も避けるために流路中の弁の部材にまでこだわっています。
この性能を持つMilli-Q ElementやMilli-Q Integral 微量元素分析タイプは、無機分析用としてはミリQの中のミリQといってもいいかもしれません。

ただし水がきれいなだけでは分析はうまくいきません。室内環境や人からの混入の要因が無視できないからです。
ですから使用環境としてはクリーンルームなど汚染源がない(少ない)ことや肌の露出がない装具で操作が求められるのです。極微量分析では、特に注意が必要となります。
Milli-Q Integral目的に応じて極限まで精製するのがPOUの役割ですが、この部分を必要に応じて増やしたり換えたりできるのが、現在のミリQの大きな特長です。

次回は別の精製用POUを紹介します。











29. 有機物を除去するEDS Pak

今回は有機物を除去する最終フィルターをご紹介しますが、有機物といってもいろいろあります…

水質分析などでは、VOC(揮発性有機化合物)を測定します。クロロホルムやジクロロメタンなどもVOCの一種です。このVOCの分析で使われる水は、もちろんVOCを含まないVOCフリーの水が必要です。ところがVOCを含まない水を準備するのは、手間がかかります。
例えば、水に含まれる有機化合物をヘキサンにより溶媒抽出をして除去するヘキサン洗浄水は、作るのに数日かかりますし、エビアンやボルビックといった市販のミネラルウォーターをロットで購入して使う方法もあります(これらのミネラルウォーターはヨーロッパの岩盤層によりろ過されVOCを含まないといった特徴があるのでVOC分析にも使われています)が、保管場所や管理の手間もかかってしまいます。


Certificate EDS Pakは、このような手間をかけることなく、ミリQにつけるだけでVOC分析に使えるようにできます。他にも、外因性内分泌撹乱化学物質(環境ホルモン)であるフタル酸エステル類の除去もでき、分析に用いられています。
以下のCertificateがついていますので、安心してご使用いただくことができます。
・ビスフェノールA  < 0.005ppb
・DEHP  < 0.2ppb
・DnBP  < 0.2ppb
・ノニルフェノール  < 0.1ppb

EDS Pakの内容物は、これらを除去するのに最適な種類の活性炭を試験し採用しています。

» 活性炭フィルターについて詳しく知りたい場合は、 超純水・純水の技術解説:最終フィルターとPODPakの活性炭フィルター をご覧ください。

次回は、C18逆相シリカを充填した少し変わったPOUフィルターのお話です。





30. LC分析に最適なLC-Pak

これまで色々な種類を説明してきました最終フィルターは、用途に合わせて選ぶだけでミリQの水質をアップグレードでき、大変便利です。最後に取り上げるのは…

内部にC18逆相シリカというものを充填したLC-Pakについてです。前回のEDS Pak同様、有機物を除去するのですが、LC-Pakは、HPLCやLC/MSといった機器分析に適した最終フィルター(POU:Point of Use)です。HPLCではサンプル中の成分を分けるために分離カラムを用いますが、最も使用されているのがC18逆相シリカを使ったカラムです。ですので、先にLC-Pakで溶離液やサンプル調製に使う超純水を処理しておけば、分析装置の分離カラムに吸着する水由来の不純物はなく、より安定した結果を得ることが可能となります。
さらに品質については、LC/MSグレードの試薬試験と同等の検査(表参照)を行っていますので、Certificateの必要な試験にも対応できます。


LC-Pak
前回のEDS Pakもそうでしたが、ミリQのPOUには不純物を吸着する充填剤が用いられる場合と、MillipakやBioPakのようにフィルターで除去するタイプがあります。このPOUのバリエーションが使用用途に合わせてさらに最適なミリQ水の選択方法になりますし、種類が増えれば選択肢も広がります。
「分野を問わず、試験・研究・分析に影響をしない超高純度の超純水ができないか?」などのお客様からのご要望も、是非お待ちしています。メルクミリポアは、これからもお客様のご要望にお応えできる製品を提供していきたいと思います。

» LC-Pakを用いた技術資料Application Notebook Vol.35、Vol.37も、参照ください。

さて、ミリQ百科は今回でひとまず最終回となります。2年半連載してきたミリQ百科は読み返してもらえれば、さらにミリQ水・純水について、深くご理解いただけると思います。超純水・純水技術を学ぶコンテンツは他にもたくさんありますので、ご参照ください。
また、新しい連載コラムも、是非、ご期待ください!


» ページトップへ戻る
» ミリQ百科その1(第1~15回)へ戻る
» 超純水装置・純水装置TOPへ戻る


お問合せ先


メルク ライフサイエンス ラボウォーター事業部

 

※掲載価格は希望販売価格(税別)です。実際の価格は弊社製品取扱販売店へご確認ください。なお、品目、製品情報、価格等は予告なく変更される場合がございます。予めご了承ください。