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超純水使用の10のルール


メルク技術講習会 MILLI-SCHOOL®にて講義しております、超純水を使うときのコツ・ポイントを毎月1つずつ全部で10のコツ・ポイントを紹介して参ります。題して「超純水使用の10のルール」。

また、「超純水超入門」 にも更に超純水についてわかりやすく書いてありますので、そちらも是非ご一読ください。

超純水使用の10のルール





10のルール その1:「用時採水する」

超純水は別名ハングリーウォーターと呼ばれるくらい、物質を何でも溶かしこむ性質があります。
そのため、採水後は空気中から二酸化炭素やイオン、揮発性の有機物などが、また、採水したガラスやポリ容器からもその成分が超純水に溶解してきてしまいます。
ですので、超純水を使うときはなるべく早く試薬調製したり、サンプルを入れたりなどしてください。
そうすれば水と必要な成分だけのものが作製できます。
たとえば超純水を放置しておくと、採水時の比抵抗18.2 MΩ・cmは60分後約4 MΩ・cmまで低下したデータがあります。
このように実験室の空気との接触で汚染されてしまう可能性があります。

採水時の比抵抗

そこでもう1つ気にしていただきたいのは、採水する時の部屋の環境です。
このポイントについては10のルール その2でご紹介します。

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10のルール その2:「採水環境を改善する」

10のルール その1では「用時採水する」、超純水は採水したらすぐ使うということを紹介しました。

10のルール その2は「採水環境を改善する」についてです。
いくら用時採水といってもそんなすぐには使えない。そんな時、部屋ににおいがするくらいの溶剤雰囲気だったり、酸やアルカリ雰囲気が強かったりすると、時間が経つにつれ部屋の空気から超純水に不純物が溶け込んできてしまいます。ですので、なるべく超純水装置を設置する場所はそのような環境から隔離することをお勧めします。
たとえばジクロロメタンの濃度を見てみると、採水直後は数~数10 pptであるのに対し、1時間放置後の機器分析室では約10 ppb、溶媒保管実験室においては約50 ppbと著しく高くなったというデータもあります。
微量の金属元素を分析する場合も同様、イオンの汚染がない環境が必要となります。
バックグラウンドが高いなど問題があるときは、試験や測定に影響を与える物質が雰囲気に存在しないか(部屋で試薬を取り扱っていないかなど)も気をつけてみてください。
検出感度にもよりますが、設置場所など採水環境を改善することをお勧めします。

1時間静置後のVOC濃度

10のルール その3では、環境は問題なくなったけど、採水するときはどんな容器を使うといいの?という疑問についてご紹介します。

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10のルール その3:「溶出の少ない容器・器具を用いる」

10のルール その2では「採水環境を改善する」、測定に影響する物質で汚染されていない部屋環境が重要ということを紹介しました。

10のルール その3は「溶出の少ない容器・器具を用いる」です。
超純水は「ハングリーウォーター」と呼ばれるほど溶解能力が非常に高いことは10のルール その1で紹介しました。
そのために採水した容器材質に含まれる物質を溶出させ、分析結果に影響を与えることまであります。
ここでポイントとなるのは測定に影響を及ぼさない材質の容器を使うことです。
HPLCなど有機物分析にはガラスの容器、イオンクロマトグラフィーによる陰イオン分析ではポリプロピレン製容器、微量元素分析には金属元素の溶出が少ないフッ素樹脂系やポリエチレン製のものを使ってください。
ただし、同じ材質の容器でもメーカーによって溶出度は異なることがあるので、実験に使用する前に一度確認試験を行ってみてください。
また、試験工程中に用いられる全ての器具についても同様に溶出の可能性がないかも合わせて気をつけてみてください。

溶出の少ない容器・器具

溶出の少ない容器・器具

10のルール その4は、せっかく選んだ溶出の少ない容器をきちんと洗浄する方法を紹介します。

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10のルール その4:「容器を十分に洗浄し、適切に保管する」

10のルール その3では「溶出の少ない容器・器具を用いる」、有機物分析にはガラス容器、無機分析にはポリ容器を使うことを紹介しました。

今回は「容器を十分に洗浄し、適切に保管する」についてです。

容器を使用後洗浄することは当然ですが、皆さんは超純水で最終洗浄をした後の容器をどうされていますか?
「乾燥させて保管場所においている」でしょうか。実はこの保管中に実験室の空気と容器が接触して汚染させる場合があります。
特に微量金属分析に用いる容器には注意が必要です。
では、どうすればいいか。それには洗浄後の容器に超純水もしくは高純度の硝酸を添加(ポリエチレン、PFA容器など)した超純水を封入して保管するのです。
これで容器を使用するまで空気と接触するのを防げます。使用前に再度超純水でリンスをしてから使用してください。
このように実験で使用するまで測定に影響を与える物質と接触させないことが重要です。


超純水の保管


10のルール その5は、容器の使い分けを紹介します。

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10のルール その5:「容器を使い分ける」

10のルール その4では「容器を十分に洗浄し、適切に保管する」、洗浄後の容器に超純水を封入保管して空気と接触させないことを紹介しました。

10のルール その5は「容器を使い分ける」です。

容器は使用目的に応じて様々な形状や大きさがあり使い分けしますが、試験、特に分析において重要なことは使用する液体や試薬によっても容器を使い分けることです。
例えば、サンプル用容器、標準液用容器、ブランク水用容器など、それぞれ専用の容器を用意します。
さらにサンプル用容器と標準液容器は濃度別(ppmレベル用、ppbレベル用など)に使い分けるとよいです。
高濃度の溶媒の調製に使用した容器は十分に洗浄を行ったつもりでも、次に微量分析用の試薬調製を行ったときに残存した成分が検出されてしまうことがあります。
高純度の試料を取り扱う際は専用の容器を決め、他の目的では使用しない。各容器にラベルを貼付するなどして、使用目的を制限するとよいでしょう。


容器を使い分ける

10のルール その6からは超純水装置から超純水を採水するときのポイントを紹介します。

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10のルール その6:「初流を排水する」

10のルール その1からその5までは採水した後の試薬としての超純水を使うポイントを紹介しました。

今回からは超純水を採水する時のポイントです。
まずは「初流を排水する」についてです。

超純水装置は内部の水の純度を保つために定期的に循環しています。
ところが最終フィルター(採水口にあるフィルター)部分は循環ができないため、装置停止中唯一の水の滞留部分となってしまいます。
また、外気と接触する部分ですから採水しない時間が長くなると水質も下がってきてしまいます。
そこで、採水するときはこの滞留した水を十分に排水してから使う必要があります。
イオンや有機物など種類にもよりますが、数百 mlから1 L程度排水することで濃度は低減されます。
採水するたびに1 Lもの初流排水は必要ありませんが、朝一番で使うときや、しばらく採水していない場合など数10 秒初流排水することをお勧めします。
このように採水口の部分の管理は重要なのですが、採水口にシリコンチューブなどつけて使用することありませんか?


初流を排水する

初流を排水する


水質に影響することがあるので10のルール その7で紹介します。

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10のルール その7:「採水口をきれいに保つ」

10のルール その6では「初流を排水する」、最終フィルターに長期間滞留している水を捨ててから使うことを紹介しました。

10のルール その7は「採水口をきれいに保つ」です。

みなさんは超純水を採水しやすくするために、超純水装置の最終フィルター(採水口)にシリコンチューブなどをつけていることはありませんか。
じつはこれが超純水を汚染する可能性が高いのです。
よくあるチューブは可塑剤が溶出しやすく、HPLCでチューブを通った水を測定するとバックグラウンドが高くなったりピークが見られたりします。
また、チューブの中に残った水にバクテリアが繁殖して通過する超純水を汚染したりもします。
使い勝手がよくはなっているかもしれませんが、できる限りチューブは付けずに採水することをお勧めします。
そういった声が多く、今は採水口が比較的自由に動かせるタイプが主流になっています。



採水口をきれいに


採水口をきれいに



もうひとつ、こうすればもっと純度を落とさずに採水できるというポイントを10のルール その8で紹介します。

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10のルール その8:「泡立てずに採水する」

10のルール その7では「採水口をきれいに保つ」、シリコンチューブなどは付けずに採水することを紹介しました。

10のルール その8は「泡立てずに採水する」です。

超純水を容器にどのように採水していますか?
どういうこと?とお思いになるでしょうが、実は採水の仕方に純度をなるべく下げないポイントがあります。
それは、なるべく泡立てずに採水することです。
泡立つ=空気と水が混ざることになるので、10のルール その2で紹介した環境からの汚染をより早くしてしまうことになります。
実際、泡立てた場合とそうでない場合で水中の硝酸イオン量が異なるデータもあります。
ではどうするか。
ちょっとしたことですが、採水口が動くタイプなら、採水口を斜めにして水を容器壁面に一旦当たるように採水してみてください。
固定式なら、容器を斜めにしてなるべく空気と混ざらないようにしてみてください(ビールを注ぐときにコップを斜めにすると泡立ちが少ないですよね。お酒を飲めない方、こんな例えをしてすみません)。


泡立てずに採水


採水の仕方ひとつで水質も変わるのですが、10のルール その9ではこれもよく使う洗瓶の使い方のポイントを紹介します。

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10のルール その9:「洗ビンに入れた超純水は適宜入れ替える」

10のルール その8では「泡立てずに採水する」、なるべく空気と混ざり合わないように採水することを紹介しました。

10のルール その9は「洗ビンに入れた超純水は適宜入れ替える」です。

洗ビンに入れた超純水洗ビンは試薬調製時にメスアップするときなど大変便利ですが、意外と汚染されやすいのです。洗ビンから水を出した後どうなっていますか?
そう、手を離すと洗ビンの水の中に空気が入っていくのが見えるかと思います。
構造上、使用するたびに外気が取り入れられるのです。

ここまで10のルールを読んでいただいた方にはもうおわかりですよね。
洗ビンの中に超純水をいれておいても使うたびに、またそのままでも外気との接触があるので汚染する可能性が高くなります。
特に純度が求められる試薬調製では、洗ビンの使用は可能な限り避けて、使用しなくてはいけない場合でも、中の超純水を直前に入れ替えるといいでしょう。
そこまでの純度が必要なくても、面倒だからと数日間入れっぱなしにせず、入れ替えや洗浄を定期的にしていただくことをお勧めします。

安定して高水質であることが超純水には求められますが、超純水装置にはそれを確認するための水質計があります。

10のルール その10では確認・管理の重要性について紹介します。

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10のルール その10:「採水するときには水質を確認する」

10のルールその9では「洗ビンに入れた超純水は適宜入れ替える」、洗ビン中の超純水は汚染を受けやすいので使う直前に入れ替えることを紹介しました。

ルールその10は「採水するときには水質を確認する」です。

超純水は、採水する際に超純水装置にある水質計を確認することで一定の水質で実験に用いることができます。
イオン量は比抵抗計により確認ができ、18.2 MΩ・cmと表示される状態で採水することによって、イオンの除かれた水を使用できます。ただし、極微量分析では、比抵抗計が示す値の感度に注意する必要があります。
表1にあるように、比抵抗計の感度はサブppbレベルです。イオンクロマトグラフィーやICP-MSなどの高感度分析ではpptレベルの超純水中のイオン量が測定に影響を与えることから、比抵抗での水質管理と併せ、定期的な装置メンテナンスやカートリッジ交換を行うことも重要となります。(ICP-MS用超純水装置では、専用の比抵抗管理方法を採用することにより、極微量レベルでの水質管理が可能となっています)

イオン以外でも超純水装置のコンディションによって、採水開始後の水質が安定しない場合があります。
図1は、長時間停止していた超純水装置から採水した超純水の比抵抗値とTOCを測定した結果です。比抵抗値は常に18.2 MΩ・cmを示していますが、TOCは運転開始直後が高く、採水に伴い徐々に低下しています。何らかの原因で(通常は定期的に内部循環をしているので滞留は少ないのですが)超純水装置に滞留していた水は水質が劣化している可能性があり、このときTOC計を確認していなければ、実験に使用した超純水水質が安定していなかったということも考えられます。つまり、超純水の水質管理は比抵抗計だけでなく、TOC計によっても行うことが必須なのです。


水質を確認

ここまでの10のルールを心がけていただくことで超純水をよりよい状態でご使用いただけ、実験の結果もより安定していきます。是非、実践してみてください。

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10のルール 番外編:「ボトル水を使用するときの2つの注意点」

これまでの10のルールで超純水の使い方のポイントはおさえていただけましたでしょうか。

今回は番外編として、皆様も使われることがあるボトル水について、ここに気をつけて使って下さい!という2つのポイントです。


1. ボトル水は目的の用途に限定して使用する

ボトル水を購入されるとき、○○用水というように選ばれていると思いますが、○○で使えるからきれいだろう…といって他の用途には使わないようにしたほうがよいでしょう。たとえば、HPLC用水はUV吸収がないことが確認された水が多いようです。ですからUV検出での測定には問題ないわけです。しかし、さらに質量分析(LC/MS)にまで使用するとなると話は別で、UV吸収がないからといって有機物が含まれないということでは必ずしもありません。そのため、何かしらのものが検出されてしまう場合もあります。
また、バイオの分野でRNaseフリー水というものがありますが、これはRNAを分解する酵素「RNase」の活性がない水です。DEPCによる薬液処理をした水であればTrisバッファーを使えなかったり、そもそも有機物をはじめとする不純物が含まれていることが多いです。また、もし、これを機器分析用に使ったら正しい結果は得られないでしょう。
いろいろな種類の水が販売されていますが、用途別になっているのには理由がありますので、正しく選んで使いましょう。


2. ボトル水は開封後なるべく早く使う

ボトル水は皆様の手元に届いて開封するまでは、その水質は保障されています。ところが開封後は超純水と同じで、環境からの汚染が始まります。ですから時間の経過とともに汚染の度合いも高くなる可能性があります。
TOCの変化グラフは、ボトル水を開封してから使用の経過とともに、有機物濃度(TOC)がどのように変化したかを見たものです。これを見ると、使用量が多くなるにつれ、TOC濃度が高くなっていくことが分かります。ですから、理想的には開封してからすぐに使い切るのがよいのですが、実際はある程度使用に時間がかかるのは仕方ありません。ですが、水が余ったからといって数日~数週間、時間が経ったものを使うと結果そのものに影響を与える場合がありますので、お勧めはできません。これは、超純水装置から出る超純水も同じことが言えます。ただし超純水装置はいつでも必要なだけ超純水を作れますから、水が余っていてもすぐに入れ替えることができます。まさに「10のルール その1」にあった「用時採水する」ですね。

ボトル水も超純水もポイントをおさえて、うまく使いこなしてください。

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