Millipore Sigma Vibrant Logo


 
ポータルTop 生化学 細胞生物学 汎用実験試薬・器具 バルク・カスタム試薬


テロメア、テロメラーゼと細胞老死と細胞死

Reference関連製品

Chandra Mohan, Ph.D. EMD Chemicals, San Diego, CA 92121

テロメラーゼは特殊なリボ核タンパク質で、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)、内在性RNA鋳型(TR)、および数種の関連タンパク質からなります。

主な機能はテロメアの安定化で、これにより染色体の組み換えと末端間融合(end-to-end fusion)が防止されます。テロメアはDNA損傷を認識し、細胞の複製能を制御します。細胞分裂のたびに、DNAの一部が染色体の末端から失われます。これは、従来型のDNAポリメラーゼでは、直線状DNA分子のラギング鎖の3'末端の完全複製が不可能なためです。

テロメア長が限界最小値に達すると、細胞は分裂不能となって細胞の老化やアポトーシスが誘発され、これに伴って細胞内ではp53, p21, およびp16が活性化されます。ヒト体細胞の分裂可能回数は約60~70回で、これを超えると増殖が停止し老化段階に入ります。

テロメラーゼは、染色体の末端に6塩基からなる反復配列(TTAGGG)を追加して幹細胞、生殖細胞およびがん細胞中のテロメア長を維持し、これにより細胞の有糸分裂のたびに累積する損傷を回避します。テロメラーゼは、既存のテロメア反復配列のG連続部分を認識し、これを起点に反復配列を5'-3'方向に伸長していきます。幹細胞、生殖細胞、癌細胞、およびある種の体細胞はテロメアの短縮をテロメラーゼの発現により克服しています。テロメラーゼの発現により、細胞はテロメア長を維持し、老化を回避することができます。

通常の細胞と比べてより高い増殖能をもつ胚性幹細胞は、細胞分裂を重ねてもテロメア長を維持する機構を発達させてきました。胚性幹細胞のテロメラーゼ活性は、潜在的に大きな増殖需要への対応能力の保証となるもので、組織を維持し修復する能力の保存に役立っています。テロメラーゼ活性値は、方向付けされた造血前駆細胞など急速に増殖している幹細胞中や活性化リンパ球中では、上方制御を受けていることが判明しています。逆に、成体幹細胞は低いテロメラーゼ活性を示します。


テロメア、テロメアーゼテロメラーゼ発現の調節異常は、いくつかのヒトの疾患と関係があることが判明しています。たとえば、先天性角化異常症は、進行性の骨髄機能不全症候群のひとつで、RNAサブユニット、もしくはテロメラーゼRNA関連タンパク質であるジスケリン(dyskerin)のいずれかの変異によるテロメラーゼの機能不全を原因としています。

患者のテロメア長は、健常人と比較して明らかに短かくなっています。

がん細胞の約90%が、短いテロメアを持ちながら高いテロメラーゼ活性を示します。たとえば、口腔癌の75%、肺癌の80%、乳癌の93%、大腸癌の95%が検出可能なテロメラーゼ活性を示します。がん細胞は正常細胞と比較してより頻繁に分裂するため、平均するとテロメア長がより短くなっています。従って、活性型テロメラーゼが存在してテロメア長を維持していなければ、 癌細胞は正常細胞よりも速い速度でテロメア長の限界最小値に達する可能性があると考えられます。

テロメラーゼ活性の存在は、がん患者の臨床転帰不良と相関性があります。従って、テロメラーゼ阻害剤は、がんの進行を管理する治療薬となりうると考えられています。

テロメラーゼ阻害の有望な方法としては、ヒトTERT(hTERT)の優性阻害型(dominant/negative)変異体の利用やテロメラーゼホロ酵素の鋳型RNA成分(hTR)に対するアンチセンスオリゴヌクレオチドの利用があげられます。

テロメラーゼ阻害剤は癌細胞の老化とアポトーシスを加速することができるものの、正常に増殖している細胞や幹細胞を破壊するおそれもあります。
 

 

老化の研究 episode 2 テロメア短縮(Telomere Attrition)

ゲノム不安定性を起こしやすいテロメアの短縮について、こちらでも老化の特徴のひとつとして、解説&テロメア短縮に関わる因子の抗体、阻害剤製品一覧を掲載しています。

 

References:

Carroll, K.A., and Ly, H. 2009. Int. J. Clin. Exp. Pathol. 2, 528
Cao, Y., et al. 2008. Cancer Sci. 99, 1092.
Hiyama, E., and Hiyama, K. 2007. Br. J. Cancer 96, 1020.
Li, S., and Blackburn E.H. 2006. Cold Spring Harb. Symp. Quant. Biol. 71, 211
Wai, L.K. 2004. MedGenMed. 6, 19.
Altshuler, M.L., et al. 2003. Biochemistry (Mosc). 68, 1275.
Mokbel, K. 2003. Curr. Med. Res. Opin. 19, 470.
Wu, X., et al. 2003. J. Natl. Cancer Inst. 95, 1211 .
Cong Y.S., et al. 2002. Micobiol. Mol. Biol. Rev. 66, 407.
Gomez, D., et al. 2002. Cancer Res. 62, 3365.
Shay, J.W., et al. 2001. Hum. Mol. Genet. 10, 677.
Rahat, M.A., et al. 1999. Cancer 85, 919.
Roos, G., et al. 1998. Int. J. Cancer 79, 343.
Wen, J., et al. 1998. Mol. Diagn. 3, 29.
Kim, N.W. 1997. Eur. J. Cancer 33, 781.
Shay, J.W. 1997. J. Cell. Physiol. 173, 266.
Harrington, L., et al. 1997. Science 275, 973.

関連製品

テロメラーゼとその関連タンパク質の抗体

製品名カタログ番号包装単位
Anti-Telomerase (Ab-1) Rabbit pAb 582000-100UL 100 µL
ヒトTERT (human telomerase reverse transcriptase)の内部アミノ酸に相当する合成ペプチドを免疫原としたポリクローナル抗体(未精製血清)。約125kDaのテロメラーゼ(TERT)を認識します。ヒトおよびマウスサンプルに反応します。ウェスタンブロッティング、免疫沈降、免疫組織染色(パラフィン切片)にお使いいただけます。
Anti-Telomerase (Ab-2) Rabbit pAb 582005-100UL  100 µL
ヒトTERT (human telomerase reverse transcriptase)の内部アミノ酸に相当する合成ペプチドを免疫原としたポリクローナル抗体(未精製血清)。約125kDaのテロメラーゼ(TERT)を認識します。ヒトおよびマウスサンプルに反応します。ウェスタンブロッティング、免疫沈降、免疫組織染色(パラフィン切片)にお使いいただけます。

 

テロメラーゼ阻害剤

製品名注文番号包装単位
(-)-Epigallocatechin Gallate 324880-10MG  10 mg
緑茶のポリフェノール成分。強い抗腫瘍性、抗炎症性、および抗酸化性を示します。無細胞系および腫瘍細胞株においてテロメラーゼ活性を強力に直接阻害します。
PIPER
(N,N'-bis[2-(1-Piperidino)ethyl]-3,4,9,10-
perylenetetra-carboxylic Diimide)
528120-10MG 10 mg 
ベリエン系リガンド。グアニン四重鎖DNAに結合してヒトテロメラーゼ活性を強力に阻害します。PIPERが最も強力に結合する部位は、グアニン四重鎖の3'末端であるように見受けられます。核酸に非特異的に結合する可能性もあります。
Telomerase Inhibitor III,Sodium Salt
(5´-d(TTAGGG)-3´; TAG-6)
581004-150NMOL 150 nmol
短鎖六量体ホスホロチオエートオリゴヌクレオチド(PS-ODN)のテロメア模倣体。2.5 µM以下の濃度で細胞可溶化物中のテロメラーゼ活性を阻害し、またin vitroおよびin vivoにおける細胞倍増時間を延長します。
Telomerase Inhibitor IX
(N,N´-bis(2,3-Dihydroxybenzoyl)-1,3-phenylenediamine)
581011-10MG 10 mg
細胞透過性で強力かつ可逆的なテロメラーゼ活性の阻害剤(IC50 = 670 nM、U937細胞より調製したTRAPアッセイ用可溶化物中)。長時間のMST-312処理によりU937細胞においてテロメア短縮と増殖停止が起こることが報告されています。Taq DNAポリメラーゼ活性は阻害しません(IC50 > 3 µM)
TMPyP4 613560-25MG 25 mg
ヒトテロメラーゼの強力な阻害剤(IC50 = 6.5 µM)。TMPyP4は、DNA四重鎖の中心のG-tetrad構造にスタッキングすることによりDNA四重鎖に強く結合し、その結果としてテロメラーゼを阻害します。四重鎖DNAの存在下で強い蛍光を発します。

 

作成日:2009/10/30
更新日:2016/7/4


 


お問合せ先


メルク ライフサイエンス リサーチ&バイオロジー

 

※掲載価格は希望販売価格(税別)です。実際の価格は弊社製品取扱販売店へご確認ください。なお、品目、製品情報、価格等は予告なく変更される場合がございます。予めご了承ください。

 

学会・展示会・セミナー情報