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「今さら聞けない」シリーズ 2
限外ろ過による効率的なバッファー交換


限外ろ過は、タンパク質の濃縮に不可欠な技術として知られていますが、脱塩やバッファー交換など、透析法により実施される事が多い実験手法の代替法としても有用です。限外ろ過は透析と比較すると処理時間が極めて短いという特長を持ちます。ここでは、限外ろ過を用いたバッファー交換についてご紹介します。

ダイアフィルトレーションによるバッファー交換

限外ろ過膜を用いた脱塩やバッファー交換はダイアフィルトレーションと呼ばれます。ダイアフィルトレーションとは、ろ過と同じペースで溶媒がろ液側に移動し、溶液中から低分子がコンスタントに除去されていく(高分子が相対的に濃縮されていく)、高分子精製のためのろ過方式です。ラージスケールのろ過系で実施するダイアフィルトレーションでは、タンジェンシャルフローろ過(TFF)を採用した循環式ろ過が一般的です。一方、スモールスケールの系ではあらかじめ溶液に置換対象のバッファーを加えて希釈したサンプルを遠心式フィルターユニットなどでろ過します。

ノーマルフローろ過(NFF)とタンジェンシャルフローろ過(TFF)の比較

ノーマルフローろ過(NFF)の場合、液体は加圧状態で膜方向に送られます。大きすぎて膜を通過できない粒子状物質は、膜 表面またはろ過材のデプス内に蓄積しますが、小さい分子は膜を通過して二次側へと移ります。この種のプロセスは、「全量 ろ過方式」とも呼ばれます。「ノーマル(垂直)」という用語は、液流が膜表面に対して垂直方向に生じることを意味しており、NFFの方がより正確に特性を示した望ましい名称です。NFFは、清澄液流の滅菌ろ過、前ろ過産物の清澄化、およびウィルス/タンパク質分離に利用できます。
NFFとTFFの比較タンジェンシャルフローろ過(TFF)の場合、液体は膜表面に沿って水平方向にポンプで送られます。加圧により、液体の一 部を強制的に膜を通過させてろ液側に送ります。NFFの場合と同様、大きすぎて膜孔を通過できない粒子状物質や巨大分子は 一次側に保持されます。ただし、保持された成分が膜表面に溜まることはなく、液の流れによって掃引されます。このような 特長により、TFFは精巧なサイズ分画に理想的な方法となっています。TFFは大規模処理の方に多く用いられるものの、たと えばAmicon Ultraのように膜パネルを垂直に装着したデバイスでも、特にスイングバケットローターでは、TFF様の分離モードが活用されています。

TFFは、「クロスフローろ過」とも呼ばれていますが、「タンジェンシャル(水平)」という用語は膜に対する液流の方向を的確に示しているため、適切な名称といえます。



限外ろ過によるダイアフィルトレーションの様式は表1のように分類されます。サンプルの量や性質に応じて適したろ過様式が異なるため、選択の参考にしてください。ダイアフィルトレーションでは、保持したい高分子と除去したい低分子のサイズに十分な差があることが必要です。大まかな目安は分子量で10倍以上のサイズ差です。そのため、ダイアフィルトレーションでは、ろ過の前後でバッファー組成に変化はなく、変化するのは高分子画分の濃度のみです。たとえば塩濃度100mMのバッファーは、遠心後も100mMの塩を含んだままです。

遠心式限外ろ過デバイスを使用する非連続的ダイアフィルトレーションでは、限外ろ過によって濃縮された高分子を含む溶液を置換対象のバッファーで希釈後に再び限外ろ過を実施することでバッファー交換が進みます。
例えば、100mMの塩を含むサンプル 4,000 μLを、アミコンウルトラ(Amicon Ultra)で50μL(80倍)に濃縮後に水 3,950μLで希釈し、再び限外ろ過を実施して50μLに濃縮した場合、塩濃度は 1/80 の 1.25 mM となります。同じ工程を繰り返せば、初期濃度の1/6400(1/80×1/80)倍である0.015625mMとなります。以上のような遠心と希釈の繰り返しによって、完全に塩の除去が可能です。

ダイアフィルトレーションの様式と選択の目安
表1 ダイアフィルトレーションの様式と選択の目安

 
ダイアフィルトレーションにより、保持されている溶質から塩を除去する
図1 ダイアフィルトレーションにより、保持されている溶質から塩を除去する

界面活性剤の除去

界面活性剤の除去
表2 Amicon Ultra-4で1回遠心した後の界面活性剤の除去率を、総有機炭素(Total Organic Carbon:TOC)分析によって測定した結果
界面活性剤はタンパク質の抽出や精製過程でよく使われる試薬です。しかし、最終的な検出や解析の段階でアッセイを阻害する場合は、精製サンプルから界面活性剤を除去する必要が生じることがあります。
界面活性剤の除去において気をつけなければならない重要なポイントは、(1)界面活性剤の臨界ミセル濃度(Critical Micelle Concentration:CMC)とミセル化した時の見かけの分子量を把握しておくこと、(2)サンプル中の初期界面活性剤濃度を確認しておくことです。なぜなら、界面活性剤濃度がCMCを超えると、ミセル化した界面活性剤は限外ろ過膜を透過できずに膜上に捕捉されてしまうからです。
例えば、Triton® X-100のモノマーは分子量500~650 Daです。この状態のTriton X-100は、NMWLが10 kDaの限外ろ過膜を容易に通過します。しかし、Triton X-100は濃度が0.01%(0.2 mM)を超えると約140個のモノマーで構成されるミセルを形成します。

限外ろ過時には、このミセルは分子量70~90 kDaの球状タンパク質に近い挙動を示します。ミセル形成したTriton X-100は、その90%以上が限外ろ過膜に保持されます。CMCを超えるTriton X-100を除去するには、NMWLが100 kDa以上の限外ろ過膜を選択する必要があります。
界面活性剤ミセルと目的高分子の分子量に十分な差がない場合や、目的成分よりも界面活性剤ミセルの分子量が大きい場合には、限外ろ過膜による界面活性剤の分離が困難になるため、界面活性剤をモノマー化しなければなりません。ミセル形成後の界面活性剤をモノマー化するためには、CMCの1/10程度の濃度まで希釈することが推奨されます。
遠心型デバイスを使用して界面活性剤を除去する場合は、合計3~5回の限外ろ過を繰り返すことで、十分に界面活性剤を除去可能です。

効率のよいダイアフィルトレーションを実現するAmicon Pro

Amicon Proの模式図
図2 Amicon Proの模式図
Amicon Ultra-0.5のフィルターカップ(容量500 mL)にファネル(容量10 mL)が付属しており、遠心によりフィルターカップ先端に向けて力が働くと低分子を含むバッファーがろ過され(黄色矢印)、高分子は対流しながら濃縮されます。原理的には一度のろ過でほぼすべてのバッファーを置換可能です。
以上のポイントを押さえれば、限外ろ過によるバッファー交換は手軽かつ高効率な極めて有用な技術です。特に遠心式フィルターユニットによるダイアフィルトレーションは手軽で安価な方法であり、様々な遠心式フィルターユニットが市販されています。

精製とダイアフィルトレーションを同時に実施する実験系のために最適化されているAmicon Proは、遠心と希釈の繰り返し回数を減らすことができるツールです。限外ろ過デバイス上部にファネルが付属した構造になっており、遠心力が働くと上部のバッファーが下部の限外ろ過デバイスに補充されるため、連続的ダイアフィルトレーションに近い限外ろ過が実現します。たった一度の遠心ろ過によって、99%以上のバッファーを交換することが可能です。


 


 


 

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