浅井 克仁 氏

株式会社遺伝子治療研究所 代表取締役社長

当社のAAV遺伝子治療開発状況

発表要旨

AAV(アデノ随伴ウイルス)ベクターを使用した遺伝子治療は、米国を中心に世界で開発が進められている。米国では2品目が承認され、その内「ゾルゲンスマ®」は日本でも承認・保険収載されている。米国では未上場企業も含めれば50社近くのバイオベンチャーがAAV遺伝子治療の開発を進めており、今後も相次いで承認品目が追加されていくものと思われる。しかし、2019年の「ゾルゲンスマ®」の承認以降はそのようなニュースはない。目標症例数が数十人規模となる第III相治験の実施には大量のAAVベクターが必要になるため、大量製造方法の確立ができていないと承認申請まではたどり着けない。加えてこの製造開発プロセスには莫大な資金が必要となる。多くの米国企業もこれらの点で苦労していると考えられる。

当社においても、製造開発にはこれまで5年以上の歳月と数十億円の資金がかかり、昨年何とか2つの大量製造方法を確立することができた。1つはHEK293細胞を用いた浮遊培養法、もう1つはメルク社の細胞株Sf-RVN®を用いたBEVS(baculovirus expression vector system)法である。どちらも200Lバイオリアクターでの実績であるが、少なくとも現在の細胞培養とAAVベクター生産の感触からは、資金調達さえできれば2000Lへのスケールアップも容易に移行できる手応えがある。実際にハーベスト(生産回収)時のAAV力価は5.0E+11vg/mL程度で、米国のCDMOからも称賛を受けているなど、世界トップ水準であると自負している。

そのおかげもあり、ようやく本年3月に当社開発品の最初の治験を開始することができ、続けて本年8-9月には別の2治験を開始する予定である。さらに、2023年には2つの国際共同治験を含む4-5品目の新たな治験を開始する計画である。このように、AAVベクターの大量製造方法は、遺伝子治療の実用化には必須の要素であり、また参入障壁にもなり得る。米国と比較して日本には遺伝子治療開発を行うバイオベンチャーが出てこない理由の1つであると考える。

しかしながら製造開発にはゴールはなく、工程の頑健性を向上させるための継続的な改良が必要であり、さらには本格的なQbDの導入により柔軟な製造プラットフォームとする必要がある。これらの点では抗体医薬品の製造開発からは、まだまだ大きなギャップがあり、未開拓の分野である。 課題は山積ではあるものの、この発表では、当社のこれまでの製造開発の経緯と、第1ステージをクリアして広がる臨床開発の計画について触れていく。

プロフィール

1984年三菱銀行入行、1994年仏INSEADにてMBA取得、2000年に投資ファンドを共同で設立、2004年からフットワークエクスプレス社社長として事業再生に従事、2011年エバーライフ社社長、等を経て2014年に村松・佐藤等と遺伝子治療研究所を設立
日本遺伝子細胞治療学会(JSGCT)、米国遺伝子細胞治療学会(ASGCT)、日本再生医療学会(JSRM)、国際幹細胞研究学会(ISSCR)、学会員